ニトリの「超落ちこぼれバイト」だった僕が、誰よりも情熱を注いだ唯一の仕事
大学1〜2年生の頃、埼玉県内のニトリでアルバイトをしていました。商品の品出しやレジなど、よくある接客が仕事の大半なのですが、それがどうにもつまらなくて、出勤日はとにかく憂鬱でした。
少しでも退屈な時間をしのごうとし、隙を見つけてはトイレの個室にこもってLINEを開き、大学の友達に「バイトトイレなう」などというメッセージを送ったりしていました。仮に「露原さんレジヘルプいけますか?」という無線が飛んでくれば「すみませんお客様対応中です」と小声で返答。
会計時にお客さんから預かったクレジットカードを3度返し忘れて社員さんに自宅まで届けさせたり、店長から「もう少し笑顔を作れない?」とレジでの態度を度々指摘されたり、棚卸しではあり得ない数の商品登録ミスをしたり、仕事ぶりはひどいものでした。完全に給料泥棒です。
当時のバイト生のなかで最も仕事をしていなかった人・やる気がなかった人は誰か?という質問をすれば、間違いなくみんな僕の名前を挙げるでしょう(笑)
「バイトメンバーで心配なのは露原くんだけです。これからは少しでも頑張れそうかな…….?」
他店へ異動するマネージャーが最終出勤日、まるで小学生を相手にしているかのような表情で僕のこれからを憂いたこの言葉が、今でも忘れられません。
しかし、その一方で、唯一情熱を燃やしていた業務が一つだけありました。それは、「梱包」です。
お客さんがレジで購入商品の配送を希望すると、その商品はカートに乗せられてバックヤードへ運ばれ、バイトが段ボールに詰めます。段ボールの種類はいくつかありますが、難しいのは商品の形状や重さがバラバラな商品をどう詰めるかです。直方体の商品だけであれば、積み上げたり並べたりするだけで済みますが、そこに食器、物干し竿、ラグなどが入ってくると難易度はぐっと上がります。ただ、バイトのほとんどは、面倒な仕事としてパパッと詰めて終わらせていたのですが、僕はここに面白さを見出しました。段ボールが重くなりすぎず、かつ中に空白が極力できないように、それでいて開けた瞬間に見たらワクワクするであろうものを一番上に持ってくるにはどうすればいいか?詰め方のパターンは無限です。形状がバラバラであればあるほど、「さて、これ以上ない詰め方で梱包しようじゃないか」と闘志を燃やし、こだわりを発揮していました。
段ボールは、余分な部分があれば切って三角柱にしたりL字のような形状にしたり、足りなければ、廃棄予定の段ボールを使って体積を増やしたりしていました。ちなみに段ボールをカッターで切るときに、上から下に切ると切断面がボロボロになりますが、下から刃を入れるとスッと切れます。みたいな、今の編集の仕事では一度も使わなくなった梱包ノウハウや、属人的な技術が日に日に溜まっていきました。バイトの先輩からは「つゆポンまた遊んでんの?w」とイジられるのですが、どれだけイジられても、梱包が楽しすぎて、早く次の梱包来ないかな?と待ち遠しくしていました。
フロアではやる気もないし、ミスも多いし、客への気遣いも愛想もない。けれどなぜか梱包だけは情熱を注いでいる。そんな様子をマネージャーはすぐに感じとったのでしょう。いつしかバイトのシフト表は、見たこともないものになりました。
田中 12:00〜21:00 品出し→レジ→荷受け→レジ
山田 16:00〜20:00 レジ→カーテンコーナー→展示品家具組み立て
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露原 18:00〜21:00 梱包
僕はこうして梱包のスペシャリストになりました。いや戦力外通告の間違いかもしれません。
数年たって、ある食事の場でこの話をしたときに気づきました。編集の仕事と梱包は似ていると。調べて知った話や取材で聞いた話を、一つの原稿に詰め込み、どうすればわかりやすく読めるものになるかを考えるのと同じであると。こじつけすぎだ!と指摘が入りそうですが、考えれば考えるほど、梱包だけに熱中できた理由は、そこしかありません。自分が手を動かすことで何か形が作られ、自分の手の中で物事が動いていくことを眺めるのが小さい頃から好きで、その手の仕事であれば打ち込める。梱包は、一部始終をすべて自分がコントロールできる、その最たる例です。
僕の近しい人は皆口を揃えて「接客だけはやめとけ」と言います。人にはそれぞれ咲ける場所があるんだと、このニトリ時代を振り返るといつも思います。できないことはできなくたっていいじゃないか。だって一人作業が得意なんだもの。
話が飛躍しすぎました。それでは。